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薬石(やくせき) 効なく

や薬石(やくせき)効なく

人が死んだ時の広告などに、古い表現であるが「薬石効なく長逝いたしました」などと使う。薬剤や医者の手当ても空しく亡くなったことを意味する。

しかし、薬石というのは、古代の医療具である石針と薬で、この両者を用いて治療することから起こり、元来、インドで修行者が腹に当てて防寒のために使った温石(おんじゃく) のこと、いわば懐炉(かいろ) をさす。つまり、正午以後は一切食事をしないおきてを守っていた彼らは、寒さと飢えを防ぐために、この種の薬石を工夫した。今日のように、電気カイロや使い捨てカイロのない時代であるから無理もなかろう。そして、お腹をこわした時なども、自らの手をヘソの上に当てて温めた。病気や怪我に対する処置を「手当て」というのも、ここに語源がある。

さて、薬石はその後、主として禅宗の坊さんが坐禅の折に使っていたが、いつか、晩の食事に使う粥または夕食のことを薬石または薬食(やしつ) と呼ぶようになり、現在もそれが常識となっている。

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そもそも晩簡(ばんがゆ) を喫することは、体力を養い病気を治して修行の道を進めんがためである、といって「薬石」と称する隠語を用いた禅家の遺風が、今日まで伝わったものであろう。

ちなみに、腹を暖めて空腹をしのぐ意味で、特に茶道で茶を出す前に「茶懐石」と称する簡単な料理を出すが、この「懐石」も温石と同じ発想に基づく語である。

※これらは、「えっ、これが仏教語?ー日常生活の中の仏教語ー宝田正道著」から引用していますが、HP掲載用文章に変更しております。